寒冷曝露で体脂肪燃焼

by 松田干城

冷水シャワーでバイオハック

「今すぐできるバイオハッキングはなんですか?」と質問されたら、間違いなく「冷水シャワー」と答えます。高価なサプリメントでもなく、お金に困っていて光熱費が払えなくても水シャワーなら浴びられますし、水道も止められている方は自然の川、湖、海に飛び込んで3−5分の寒冷暴露で体脂肪燃焼体質に自身をハックできます。
東京大学先端科学技術研究センター、代謝医学分野の酒井 寿郎 教授がNature Communicationに発表した論文は世界中から注目されています。日本語プレスリリースはこちら> 脂肪燃焼体質を作るには、寒さの感知とエピゲノムの変化が重要 エピゲノム(遺伝子の後天的修飾)を介した寒冷環境への適応機構の解明
恒温動物は寒冷環境に適応するしくみを持っていますが、この際に重要な役割を持つのが脂肪細胞です。急激に環境の温度が低下すると交感神経系が活性化し、褐色脂肪細胞で脂肪が燃焼され、熱が産生されます。一方、皮下脂肪などを形成する白色脂肪組織は、エネルギーを脂肪として貯めることが主たる役割であるため熱産生能を有しておらず、熱産生に関与する遺伝子も発現していません。しかし、寒冷環境が長期に持続すると、白色脂肪組織でも脂肪燃焼と熱産生に関わる遺伝子が誘導され、寒冷環境に個体が耐えられるよう適応します。
酒井教授の研究は恒温動物が長期の寒冷刺激を受けると、どのようにして遺伝子に寒冷環境に適応した体質への変化を促すのか、という研究で、エピゲノム(後天的な調節機構)「休止中」だった脂肪燃焼と熱産生に関わる遺伝子群を「活動中」にし、遺伝子を発現させて白色脂肪細胞から熱を生産する褐色脂肪細胞にすることで、寒冷環境に慢性的に適応する仕組みを解明しました。
褐色脂肪組織は、主に鎖骨、胸骨、首、背中の上部に存在し、お腹、お尻、腰、足などにある通常の白色細胞を燃やして熱を発生させることができる脂肪です。
通常は、運動やカロリー制限をして、グルコース(ブドウ糖)を燃やし、グリコーゲン(肝臓や筋肉に蓄えられた糖分)を燃やしてから、ようやく脂肪を燃料として利用することができます。しかし、褐色脂肪細胞は白色脂肪を即座に直接燃焼させることができます。
褐色脂肪細胞はすべての哺乳類に存在します。読者の皆さんは赤ちゃんが「ブルブルと震えない」ことをご存じでしょうか?正確に言うと「震えることができない」からです。プニプニで生まれてくる赤ちゃんの体脂肪がほとんどが褐色脂肪細胞だからです。むしろ褐色脂肪組織は、幼児期を過ぎると消失すると考えられていました。
体温を保つ機能で大切な褐色脂肪細胞は運動や断食で増加しますが、寒冷療法を侮ってはいけません。

アディポネクチンの活性化

脂肪細胞から分泌されるタンパク質「アディポネクチン」は、インスリンのはたらきを正常に戻す作用、動脈硬化を防ぐ作用、心臓を保護する作用など、生体に有益な多彩な生理活性を持つ"善玉"体内物質として注目されています。また、寒さにさらされたときに分泌され、脂肪を分解し、ブドウ糖を筋肉に運ぶ働きがあります(血糖値を下げる効果)。これは、同化作用、筋肉の修復作用があるだけでなく、回復力を高めることができます。アディポネクチンレベルの低下は、肥満、糖尿病、心血管疾患と関連しています。

免疫系の強化

寒冷療法は病気や感染症と闘う免疫系細胞のレベルを上げることで、免疫系を強化することが証明されています。
具体的には、ノルエピネフリンの分泌を促す寒冷環境下では、白血球や顆粒球(白血球の一種)の増加、ナチュラルキラー細胞の増加や活性化、IL-6(インターロイキン6は多彩な生理作用を有するサイトカインと呼ばれる物質の一種で、免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割を果たしています。)の循環レベルの上昇など、免疫系の機能を大幅に向上させる効果が期待できます。
 

細胞寿命の延長

mTORは人間にも存在するタンパク質です。長寿の研究で、ミミズやハエ、マウスがカロリー制限を受けると長生きするという話を聞いたことがあるかもしれませんが、その原因はmTOR経路の下方制御にあるという仮説が立てられています。 mTOR経路が阻害されると、細胞のオートファジーが起こります。オートファジーとは細胞内の不必要な代謝産物を体外に排出する働きのことで、これによって細胞が健康的に長生きすることができると考えられています。
寒冷環境は、カロリー制限や断食と同様のmTOR経路により、細胞の長寿に影響を与えます。基本的には、細胞の丈夫さと健康を同時に高める組み合わせと考えることができます。

新陳代謝の向上と血糖値の低下

寒さにさらされると、血中のブドウ糖は体を温めるための燃料として急速に燃焼されたり、回復やパフォーマンスを高めるために筋肉に蓄えられたりしますが、その前に血糖は肝臓で脂肪に変換される可能性があります。食べ過ぎてしまったときは、冷水シャワーや水風呂を取り入れることも選択肢の一つです。
ヒトの褐色脂肪細胞の代謝をPET(positron emission tomographyポジトロン断層法)とCT(computed tomographyコンピュータ断層撮影)を組み合わせて調べたところ、低温にさらされることで褐色脂肪細胞のグルコース摂取量が12倍に増加し、代謝とエネルギー消費量も大幅に増加することが確認されました。

寒冷療法の種類

冷却療法

冷却療法・クライオセラピー

WBC(whole-body cryotherapy)は温度と湿度が厳密に管理された特別な部屋で行われます。最小限の服装(下着、靴下、専用の靴など)で、-60℃のチャンバーに入り、そこで約30秒間体を慣らした後、冷却システムに応じて-110℃~-140℃のクライオチャンバーの中で3分待機します。皮膚の凍傷や壊死の危険性を避けるため、入室前に汗を取り除くことが義務付けられています。日本にもクライオセラピーが普及しているようですね。効果評価には連続した20回のセッションが最低必要であり、30回のセッションが最適であると考えられる、とされています。
クライオセラピー
WBC(whole-body cryotherapy)の効能
  • 脂質プロファイルの改善効果(中性脂肪が減るなど)がある。
  • イリシン(骨格筋由来のホルモンで、白色脂肪組織中の褐色脂肪細胞に作用して褐色細胞化を促し熱産生を促進する)の発現を刺激する効果があり、熱発生を促進することで脂肪組織レベルで作用すると思われる。
  • ホルモンに影響を与え、コルチゾールなどのストレスホルモンを減少させ、典型的な同化ホルモンであるテストステロンを増加させる。

 

水風呂

ここで定義する水風呂は銭湯やサウナ施設での水風呂よりも、もっと温度の低い水風呂です。温度が10°Cになるまで水に氷を加え、10分から15分だけ浸かってみましょう。
同業者が被験者となったケースです。
セミプロの総合格闘家(n=15)がトレーニングセッションの直後に,水風呂(10℃で15分間)導入したところ、筋肉痛やストレス内分泌反応(HPA軸)の活性化が抑えられたので、シンプルにリカバリー方法であると結論づけられています。
しかし、2017年に行われた研究では氷風呂はこれまで専門家が考えていたほど有益ではない可能性が示唆されています。
こちらはバイオハッカーサミットで経験した10℃の水風呂システムです。
水風呂

水シャワー

いつものシャワーの最後に、ゆっくりと温度を下げることから始めましょう。オランダで行われた臨床試験(ランダム化比較試験)では18歳から65歳の3018人の参加者を、30日連続で30秒、60秒、90秒間(温かいシャワーの後に冷たい)シャワーを浴びたグループの79%の参加者が、連続30日間のプロトコルを完了し、(温水-冷水)シャワー療法で病気欠勤が29%減少したことが示されました。
お風呂の後やホットシャワーの後に最初は30秒、徐々に60、90秒と増やし、いきなり冷たいシャワーを3−5分浴びれるようになったら、あなたも歴としたバイオハッカーです。
それ以外にオススメなのが20秒熱いシャワー10秒冷たいシャワーを10セットです。サウナと水風呂と同じような温冷療法の効能もありますし、慣れてきたら逆に10秒熱くて、20秒冷たいシャワーにして慣れさせていきましょう。
冷水シャワーは上記の効能以外にも興味深い研究結果があります。

 

最後に注意しなければならないのは、冷却療法は特定の治療法の代わりに行うものではないということです。あくまでも、ご自身の健康状態に合わせて取り入れてください。心臓疾患のある方、特定の薬を服用している方、重い病気を克服したばかりの方などは、冷却療法を始める前に必ず医師に相談してください。
冷たいシャワーは、健康を気遣う人や、病気を未然に防ぐための予防策として、とても有効なバイオハッキングであることは間違いありません。思い切ってその効果を実感してみてください。きっと素晴らしい体験ができるはずです。

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