おせち料理の魅力:日本の文化遺産と健康効果を徹底解説
おせち
1月はおせち料理や七草粥など、伝統行事や和食に触れる機会の多い年明けです。新年は健康を意識して、和食や発酵食品、乳酸菌などを積極的に取り入れてみるのも良いかもしれません。
我々日本人は味噌汁や漬け物、納豆などを何気なく食べていますが、ユネスコは2013年「和食;日本人の伝統的な食文化」を無形文化遺産に登録しました。これは「自然を尊ぶ」という日本人の精神を体現する食に関する社会的慣習として提案された背景があります。多種多様で新鮮な食材を使用し、栄養バランスに優れ健康的であること、自然の美しさや季節の移ろいを表現すること、正月などの年中行事と密接に関わり、家族や故郷との絆を深めることなどが高く評価されました。また、日本が世界最長寿国で世界1、2位であることも和食を高く評価する要因となったといわれています。特に発酵食品は旬の素材を大切に使い、保存食として活用するなど日本の伝統的な食文化に欠かせないものです。
各国には国を代表する自然物があります。例えば、日本の国鳥はキジ、国石はヒスイです。そして、なんと日本には「国菌」もあります。麹菌(こうじきん)です。 麹菌は、醤油、味噌、酢、みりん、鰹節、清酒など、日本の伝統的な発酵食品に欠かせないもので、2006年に「国菌」に指定されました。 温暖多湿な気候に位置する日本は世界平均の約2倍の降水量があります。日本の気温と湿度は微生物の活動を利用した発酵に最適であり、日本は世界有数の発酵食品大国となっています。日本人は昔から微生物の力を借りて、漬け物、味噌、醤油、納豆など様々な発酵食品を作り、日常的に食してきました。発酵食品シリーズの記事でもご紹介したように、研究により発酵食品の効能や、我々の食生活と健康の深い関係が明らかになっています。
日本人は新年をどのように迎える?
1月はおせち料理や七草粥など、伝統行事や日本食に触れる機会の多い時期です。2025年は健康を維持するために、日本食や発酵食品、乳酸菌を意識的に食生活に取り入れましょう。日本の正月は家族や友人、食べ物に囲まれて過ごすものです。特に、日本の正月料理の伝統、おせち料理は季節のさまざまな美味を盛り込んだ重箱料理です。おせち料理の材料は健康を促進する効果があるものを選び、幸運と繁栄をもたらすようにと食されてきました。特別な食事にはさまざまな料理があり、それぞれに新年に関連する意味や象徴があります。
例えば、お正月のお祝いの席でよく食べられる料理のひとつに、お雑煮があります。この汁物には通常、餅と野菜が含まれています。餅の白さは純粋さと幸運を表しています。また、煮るのが難しい黒豆も、おせち料理でよく食べられます。黒豆は黒大豆の一種で、縁起の良い食べ物とされています。黒豆を食べると、新年に健康と繁栄がもたらされると言われています。
おせち料理には、他にもさまざまな料理が供されますが、それぞれに特別な意味や象徴が込められています。縁起の良い食べ物を口にすることは、新年の健康と幸運を祈る上で重要な意味を持ちます。表面的な信念を超えて、お節が身体にどのような影響を与えるか深掘るために文化と科学の両面から見ていきましょう。
滋養に富んだ食べ物+善玉菌の餌=健康の最適化
黒豆は他の豆と比べて健康に良いのはなぜだと思いますか?栄養学的な視点から見ると、黒豆にはアントシアニンという色素が豊富に含まれています。アントシアニンには抗酸化作用があり、活性酸素の害から体を守る働きがあります。活性酸素は細胞を傷つける物質で、がんや老化の原因とも言われています。年末年始の寒さや不規則な生活は体にストレスを与え、活性酸素を増やします。そんな時こそ、アントシアニンを含む黒大豆を食べたいですね。
田作り(鰯の稚魚を胡麻と砂糖で甘露煮にしたもの)はカルシウムが豊富です。カルシウムは日本人が不足しがちな栄養素のひとつで、不足すると骨粗鬆症の原因になります。特に女性はホルモンの関係で骨が弱くなりやすいので、カルシウムを補給することが大切です。
すあえ(辛子蓮根)は先見の明を象徴します。レンコンにはビタミンC、カリウム、食物繊維、タンニンが含まれています。ビタミンCとタンニンは体内の酸化を抑え、食物繊維は腸内環境を整え、カリウムは体内の余分なナトリウムを尿と一緒に排出する働きがあり、これらの栄養素は人体にとって非常に重要な役割を果たしています。
なます(ニンジンと大根の甘酢漬け)は、歯ごたえがあり酸味が効いていて、さっぱりとした味わいです。 Journal of Diabetes Research誌に掲載された研究によると、酢は2型糖尿病患者がインスリンをより効果的に利用し、食後の血糖値を改善するのに役立つことが示唆されています。 酢の物は前菜や焼き魚や肉料理の付け合わせとして最適で、おめでたい紅白の色合いから、おせち料理には欠かせない一品です。
昔は冷蔵庫がなく、お正月の三ヶ日は休む(料理をしない)ことから、当時は贅沢だった砂糖が多く使われていたため、保存食のような味付けになりました。
乳酸菌の力で常識を覆すお寿司
おせち料理には、醤油、みりん、味噌など麹をベースにした調味料で調理され、味付けされた栄養価の高い植物性食品が詰まっていますが、乳酸菌もまた、日本の正月料理において重要な役割を果たしています。 乳酸菌は消化吸収を促進するだけでなく、有害な細菌の繁殖を抑制する働きもあります。 魚と塩と米を乳酸発酵させて作る熟れ寿司(なれずし)という種類の寿司があります。 特別な行事や祝い事の際に振舞われるため、日本では11月の終わり頃から、翌月のおせち料理用に熟れ寿司の準備を始めるのが一般的です。なれずしは世界でも珍しい発酵食品です。
日本以外でも東南アジアや東アジアのタイ、ラオス、ベトナムなどにも同様の食文化があることが知られており、日本国内でも地域によってさまざまな作り方があります。また、使用する材料や保存方法、保存期間も国によって異なります。なれずしの酸味は乳酸発酵によるもので、乳酸が増えると酸味が生まれます。同時にアミノ酸などのうまみ成分も増え、酢による酸味とは異なる独特の風味が生まれます。酸味には細菌の繁殖を抑える効果があり、冷蔵庫のない昔の日本では保存食として、またタンパク源として、1年中食べられるようにと作られた寿司でした。
発酵は食材の臭みや味を変えるだけでなく、食材の栄養価も変化させます。ビタミンやアミノ酸など、元の成分にはなかった栄養素が生成されます。熟成鮨の場合、ビタミンB群が生成されることが知られています。また、乳酸発酵を長期間行うことで、魚を頭からしっぽまで食べることができ、カルシウムを効率的に摂取することができます。発酵の過程で微生物が原料の栄養分を分解するので、食べたときの胃や肝臓への負担が少ない点も忘れてはいけません。熟成されたなれずしは、栄養素の消化吸収が効率的に行われます。
乳酸発酵により、なれずしには乳酸菌がたっぷり含まれており、乳酸菌は腸内の善玉菌なので、腸内環境の改善、免疫力の向上、疲労回復などが期待できます。このような発酵食品は予防医学の観点からも大きな可能性を秘めています。「鯖発酵食品であるなれずしの高血圧自然発症ラットに対する降圧効果」という研究では、高血圧自然発症ラットに対する降圧効果が認められています。また、「鮎のなれずし連続給与がマウスに及ぼす脂質代謝への影響」という研究では、24週間後のマウスの脂質代謝に良い影響が認められています。なれずしはメタボリックシンドロームの改善にも大きな可能性を秘めていると考えられます。
新年を高いモチベーション、感謝、尊敬の念を持ってスタートできることを願っています。皆さまにとって健康で良い年になりますことを願っています。日本の歴史と伝統は数えきれないほどあり、発酵について学ぶことは我々をウェルビーイングへと導くことでしょう。
出展:
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43(2):131-135,2010 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/43/2/43_131/_pdf
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The State of Food Security and Nutrition in the World 2019: In brief in Japanese(JAICAF)https://www.jaicaf.or.jp/fileadmin/user_upload/publications/FY2019/SOFI2019_J.pdf
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